「企業防災」の取組を実効性あるものに~企業防災を支えるリーダー育成の重要性~

令和6年能登半島地震の発生から約2カ月が経過しましたが、いまだ1万人を超える方々が避難所での生活を続けているなど、被災地では厳しい状況が続いています(2024年2月28日現在/「令和6年能登半島地震に係る被害状況等について」より)。

帝国データバンクが全国1,255社を対象に行った「能登半島地震の影響と防災に関する企業アンケート」では、今回の地震によって約95%の企業が「企業防災」の大切さを改めて実感していると回答しました(※甚大な被害を受けた能登地方の企業にはアンケート要請を行っていないため対象外となっています)

今回、改めて「企業防災」の必要性が再認識された背景は何なのか、また、「企業防災」における取組を実現するために必要なことを考えてみましょう。

目次

能登半島地震をきっかけに企業が改めて防災対策の必要性を認識

能登半島地震によって、被災地域以外の企業でも企業活動に大きな影響がおよびました。たとえば、被災地域以外でも取引先が被災地にあるためサプライチェーンに間接的な影響が発生する、仕入れ先工場の稼働状況が不透明…など、自社のみならずステークホルダーも加味した災害対策を講じる必要性が再認識されています。先に紹介した帝国データバンクの「能登半島地震の影響と防災に関する企業アンケート」によると、能登半島地震に関しては、全国の13.3%の企業が、自社の企業活動に対して「影響がある(見込みがある)」と回答。北陸地方に限定すると、その数値は43.2%に上ります。

多くの企業が地震による企業活動への影響を受けた中、能登半島地震の発生を機に、「企業として改めて大切だと考えた防災対策」に着目すると、事業継続計画(BCP)の見直し・策定以上に「飲料水、非常食などの備蓄」「社内連絡網の整備・確認」など、企業活動を支える社員やその家族の生活安定に関連する内容が多く見られました。今回の地震が元旦に発生し、多くの企業で長期休暇中であったことも起因しているかもしれません。

一方で、「自社では、自然災害への備蓄保存や自家発電、社内マニュアルなどすべて対策を講じているが、今回のような災害ではどこまで実際に対応できるか不安である」という声もあります。いかにマニュアルを揃え、環境整備と対策を講じたとしても、実際に災害に直面した時にどこまで対応できるかわからないという不安があるようです。どんな対策や取組も実際に実行するのは人であり、自社が、ひいては自分が、災害時において即座にリーダーシップを発揮できるのだろうか、といった不安を抱える企業は少なくないのかもしれません。

たとえば、2011年の東日本大震災でこんな経験をされた方もいます。
「3.11当日、5階の事務所で勤務していて立っていられないほどの揺れを感じました。揺れが収まった後、従業員に声をかけてみんなで避難しようとしたんですが、2つある階段のどちらを使うべきか、ものすごく迷いました。もし自分が判断を誤れば従業員の命を危険にさらすことになるかもしれないと思った瞬間に足が震え、みんなにかける声が出なくなりました」

このように、災害時におけるリーダーシップの有無は、安全な避難にも直結するのです。

参考サイト
https://hr.nttls.co.jp/crisis/column/210511.html

形骸化しない防災対策を講じ、そのうえで実効性も高めるためには、“平常時も災害時もリーダーシップを発揮して周囲を動かせる人材”の育成がカギとなります。

いざというときに頼りになる「防災のプロ」の育成事例

では、人材育成の観点で、企業はどのように防災に取り組んでいるのでしょうか。事例をご紹介します。

JR東日本(東日本旅客鉄道)労働組合

2011年の東日本大震災では、東日本エリアの列車が大地震によって緊急停止し、JR東日本の沿岸部路線では高台への避難・誘導が実施されました。JR東日本労働組合では、東日本大震災を経験した約1万2,000人の組合員に対するアンケートを実施し、その結果から、災害時の避難・誘導のあり方や、教育・訓練のあり方が重要であると判断。各職場において、災害時に適切な行動が取れる“防災のプロ”の育成が必要と考え、「防災士」資格の取得を進めています。

参考サイト
https://bousaisi.jp/report/jr/

株式会社フジ

愛媛県松山市に本社を置くショッピングセンターチェーンです。災害発生時には各店舗が地域防災の拠点となりえることから、各店舗の責任者やマネージャーが「防災士」資格を取得し、日頃から防災活動や防災啓発活動、防火訓練などを牽引しています。

参考サイト
https://ikusa.jp/202003097965

これらの事例では、「防災士」という資格の取得を通じ、“平常時から組織を牽引し、災害時にはリーダーシップを発揮して最適な行動が取れる人材”を育成することで、企業防災の実効性を高めています。

防災士になるための学びを通じて災害時の「リーダー」を育てる

では、「防災士」とはどのような役割を担う人であり、その資格取得を通じた学びによってどんなスキルや知識が得られるのでしょうか。

「防災士」は、阪神・淡路大震災の教訓をもとに、自助・共助による地域防災力の飛躍的向上を図るために、日本防災士機構が 2003年に創設した資格制度です。平常時における災害対策を自分から周囲に広げたり防災訓練のリーダー役を果たしたり、災害時には避難誘導、避難所開設でのリーダーシップの発揮、被災地支援等の役割を担っています。国内外での災害多発に伴い、感心が高まっていることから、その認証登録者数も急増しています。

参考
日本防災士機構 防災認証登録者数の推移
https://bousaisi.jp/aboutus/

その資格取得における学びの過程では、災害が起こる仕組みなどの基礎的なことから、自治体の防災計画の立て方、AEDを使用した災害時の救助者の動き、被災者が寝泊まりする仮設住宅の設置条件、災害に関する法律など、災害にまつわるあらゆることを学びます。以下は、NTT ExCパートナーの防災士育成研修カリキュラム案です。

出展:NTT ExCパートナー 防災士育成研修 研修内容

受講者からは以下のような声もあり、学びを通じて災害時に自分が自発的に対応しよう、また、実際に対応できるマインドが醸成されたことがわかります。

「救命救急講習は過去に何回か受講しましたが、とても実践的で体で覚えることができました。実際、受講2週間後に家族で海水浴場に行った時のことですが、溺れた方に遭遇し、周りにライフセーバーもいなかったため、ライフセーバーが来るまで、講習で学んだ心肺蘇生を施し、無事溺れた方の命を救うことができました。受講していて本当に良かったと実感しています。」

「実践的な内容も多く、避難所運営図上演習を体験しましたが、実際に災害が起こったら行動出来るかを考えるきっかけになりました。」

企業に防災士がいるということは、BCP策定時には実際の被害を踏まえたより精度の高い計画ができる、災害が発生しても社員がリーダーシップをとる体制であることで主要取引先や顧客から信頼される、社員の安心感につながるなど、様々なメリットにも繋がるのです。

このように、防災士の資格取得を通じて、災害時に自発的に、周りの社員や家族を守ろうと行動できるマインド、リーダーシップが養われると考えられます。

企業防災の実効性を高める人材育成をサポート

今回は、能登半島地震による企業活動への影響に関する調査から、企業防災が必要な背景に加え、特に実効性のある対策を進めるうえでカギとなる人材育成についてご紹介しました。人材面の備えとしては、防災士の資格取得を通じた学びを通して、知識の底上げや組織の牽引力向上、学びを通じた災害時のリーダーシップのマインド醸成、実際の災害時のリーダーシップ発揮につなげるなど、人づくりの面でも備える重要性をご認識いただけたのではないでしょうか。

NTT ExCパートナーでは、企業・組織における災害対策の知識と実践力を備えた人材育成のため、防災士資格認定に必要な全工程をサポートするフルパッケージの防災士育成研修を提供しています。制度としての備えは十分だが、実際に実行できるか懸念がある、という方はぜひお気軽にご連絡ください。

【関連ソリューション】

「人材育成・防災士育成研修」https://hr.nttls.co.jp/crisis/humanresources/
ビジネス分野での人材育成ソリューションの豊富な実績を活かし
防災分野も、段階的に知識・スキルアップが図れる集合研修、
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